訪問看護では「医療保険」と「介護保険」の2つの公的保険が利用でき、どちらが適用されるかによって利用条件や費用負担が大きく異なります。開業を考えている方にとっても、利用者やご家族への説明の場面でも、この違いを正しく理解しておくことは欠かせません。この記事では、医療の現場を知るチームの監修のもと、訪問看護における医療保険と介護保険の違いを比較表や具体例を交えてわかりやすく解説します。

訪問看護で使える2つの保険制度とは

訪問看護は、看護師や理学療法士などの専門職が利用者の自宅を訪問し、療養生活の支援や医療処置を行うサービスです。このサービスには、大きく分けて医療保険(健康保険)介護保険の2つの公的保険制度が適用されます。

どちらの保険が適用されるかは、利用者の年齢、疾患の種類、要介護認定の有無などによって決まります。訪問看護ステーションの運営者や開業を目指す方にとって、この仕組みを正確に把握しておくことは、利用者への適切な説明や正しいレセプト請求のために不可欠です。

医療保険(健康保険)とは

医療保険は、病気やけがの治療を目的とした保険制度です。訪問看護では、主治医が「訪問看護指示書」を交付することで利用が開始されます。年齢制限がなく、0歳の乳児から高齢者まですべての年齢層が対象となる点が大きな特徴です。

介護保険とは

介護保険は、加齢に伴う心身の変化による要介護状態を支援するための保険制度です。訪問看護を介護保険で利用するには、要介護認定(要支援1〜要介護5)を受けていることが前提条件となります。ケアマネジャー(介護支援専門員)がケアプランに訪問看護を位置づけ、主治医の訪問看護指示書と合わせて利用が開始されます。

医療保険と介護保険の違い比較表

訪問看護における医療保険と介護保険の主な違いを、以下の比較表で整理しました。それぞれの制度の特徴を把握するためにご活用ください。

比較項目 医療保険 介護保険
対象者 年齢制限なし(0歳から利用可) 65歳以上の要介護認定者、40〜64歳の特定疾病該当者
利用条件 主治医の訪問看護指示書が必要 要介護認定+ケアプランへの位置づけ+主治医の指示書
訪問回数の制限 原則 週3回まで(厚生労働大臣が定める疾病等は回数制限なし) ケアプランの範囲内(支給限度額の枠内で調整)
1回の訪問時間 30分〜90分(1日1回が原則) 20分未満、30分未満、30分以上60分未満、60分以上90分未満の4区分
自己負担割合 1割〜3割(年齢・所得による) 1割〜3割(所得による)
主治医の指示書 必須 必須
ケアマネジャーの関与 不要 必須(ケアプランに位置づけが必要)
報酬請求先 社会保険診療報酬支払基金または国保連 国民健康保険団体連合会(国保連)
利用期間 指示書の有効期間(最長6ヶ月)ごとに更新 認定有効期間内(更新申請が必要)
上記は一般的な内容です。加算の適用や特定の疾病等に該当する場合は例外があります。最新の制度内容は、厚生労働省の通知や各都道府県の案内をご確認ください。

医療保険が適用される主なケース

訪問看護において医療保険が適用されるのは、主に以下のようなケースです。要介護認定を受けていても、該当する場合は医療保険が優先して適用されます。

厚生労働大臣が定める疾病等

以下に該当する疾病等の利用者は、要介護認定の有無にかかわらず医療保険による訪問看護が適用されます。また、週3回の回数制限が撤廃され、必要に応じた頻回な訪問が可能となります。

  • 末期の悪性腫瘍(末期がん)
  • 多発性硬化症、重症筋無力症、スモン、筋萎縮性側索硬化症(ALS)
  • 脊髄小脳変性症、ハンチントン病、進行性筋ジストロフィー症
  • パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上かつ生活機能障害度がII度またはIII度のもの))
  • 多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群)
  • プリオン病、亜急性硬化性全脳炎
  • ライソゾーム病、副腎白質ジストロフィー
  • 脊髄性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症
  • 慢性炎症性脱髄性多発神経炎
  • 後天性免疫不全症候群(AIDS)
  • 頸髄損傷、人工呼吸器を使用している状態

急性増悪期(特別訪問看護指示書)

病状の急性増悪や退院直後など、一時的に頻回な訪問看護が必要な場合は、主治医が特別訪問看護指示書を交付します。この指示書が交付された期間(最長14日間)は、医療保険による訪問看護が適用され、毎日の訪問も可能です。要介護認定を受けている利用者でも、この期間中は医療保険が優先されます。

小児(0歳〜未就学児・学童)への訪問看護

小児は介護保険の対象外であるため、すべて医療保険での訪問看護となります。先天性疾患や染色体異常、重症心身障害児への訪問看護はすべて医療保険が適用されます。

精神科訪問看護

精神疾患を有する利用者に対して行う精神科訪問看護は、精神科訪問看護指示書に基づき医療保険で提供されます。認知症の方で要介護認定を受けている場合は介護保険が適用されることもあるため、疾患名と認定状況を確認することが重要です。

介護保険が適用されるケース

訪問看護を介護保険で利用するのは、以下に該当するケースです。

65歳以上(第1号被保険者)

65歳以上の方で要介護認定(要支援1〜2、要介護1〜5)を受けている場合は、原則として介護保険での訪問看護が適用されます。ケアマネジャーが作成するケアプランに訪問看護を位置づけたうえで、主治医の訪問看護指示書に基づいてサービスが開始されます。

40歳〜64歳(第2号被保険者)の特定疾病

40歳から64歳の方は、厚生労働省が定める16種類の特定疾病に該当し、かつ要介護認定を受けた場合に介護保険での訪問看護が利用できます。主な特定疾病は以下のとおりです。

  • がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)
  • 関節リウマチ
  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
  • 後縦靱帯骨化症
  • 骨折を伴う骨粗鬆症
  • 初老期における認知症
  • 脳血管疾患
  • 閉塞性動脈硬化症
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症 など
40歳未満の方や、40歳以上65歳未満で特定疾病に該当しない方は、介護保険の利用対象外です。これらの方が訪問看護を利用する場合は医療保険が適用されます。

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両方の保険が使える場合のルール

訪問看護は医療保険と介護保険の両方に位置づけられたサービスですが、同一の利用者に対して同時に両方の保険を適用することはできません。どちらの保険が適用されるかには明確なルールがあります。

介護保険優先の原則

要介護認定を受けている利用者に対する訪問看護は、原則として介護保険が優先されます。これは「介護保険優先の原則」と呼ばれ、健康保険法と介護保険法の両方に規定されています。つまり、65歳以上で要介護認定を受けている方が訪問看護を利用する場合、基本的には介護保険が適用されます。

医療保険が優先される例外

ただし、以下のケースでは要介護認定の有無にかかわらず医療保険が適用されます。

  • 厚生労働大臣が定める疾病等に該当する場合(前述の末期がん、ALS、人工呼吸器使用者など)
  • 主治医から特別訪問看護指示書が交付されている期間(急性増悪・退院直後など、最長14日間)
  • 精神科訪問看護指示書に基づく精神科訪問看護を行う場合(認知症を除く)

特に開業時には、利用者ごとにどちらの保険が適用されるかを正確に判断できる体制を整えることが大切です。適用保険の判断を誤ると、レセプト返戻や過誤調整の原因となります。

適用保険の判断フロー

実務では、以下のような流れで適用保険を判断します。

  1. 利用者が要介護認定を受けているかを確認する
  2. 要介護認定を受けている場合、厚生労働大臣が定める疾病等に該当するかを確認する
  3. 該当する場合は医療保険、該当しない場合は介護保険を適用する
  4. 特別訪問看護指示書の有無を確認し、交付されている期間は医療保険に切り替える
  5. 要介護認定を受けていない場合は、すべて医療保険が適用される

開業時に知っておくべきポイント

訪問看護ステーションの開業を準備している方は、医療保険と介護保険の両方の制度に対応する事務体制を整えておく必要があります。ここでは、開業前に押さえておくべき実務上のポイントを整理します。

指定申請は介護保険・医療保険の両方が必要

訪問看護ステーションは、介護保険の指定(都道府県または指定都市・中核市)と医療保険の指定(地方厚生局)の両方を受ける必要があります。介護保険の指定を取得すれば、健康保険法に基づく「みなし指定」が適用される場合もありますが、管轄の厚生局へ確認しておくと確実です。指定申請の具体的な手順や必要書類については、訪問看護ステーション開業の届出・手続きガイドで詳しく解説しています。

レセプト請求先の違いを理解する

適用される保険によってレセプトの提出先が異なります。

適用保険 請求先 請求に使う明細書
介護保険 国民健康保険団体連合会(国保連) 介護給付費明細書
医療保険(社保) 社会保険診療報酬支払基金 訪問看護療養費明細書
医療保険(国保) 国民健康保険団体連合会(国保連) 訪問看護療養費明細書

同じ利用者であっても、月の途中で適用保険が変わるケース(例: 特別訪問看護指示書が交付された場合)があります。請求ソフトの設定や事務フローを開業前にしっかり整備しておくことが重要です。

ホームページでの情報発信も大切

利用者やご家族、ケアマネジャーが訪問看護ステーションを選ぶ際、ホームページで「どのような保険に対応しているか」「どのようなサービスを提供しているか」を確認するケースが増えています。開業と同時に、保険制度の違いやサービス内容をわかりやすく掲載したホームページを用意しておくことで、信頼感と問い合わせ数の向上につながります。

訪問看護ステーション専門のHP制作サービスを活用すれば、業界に精通した医療の現場を知るチームが、制度説明を含むページ構成や医療広告ガイドラインへの対応も含めて対応いたします。料金プランもあわせてご確認ください。

訪問看護の医療保険・介護保険に関するよくある質問

Q. 訪問看護は医療保険と介護保険のどちらが優先されますか?

原則として介護保険が優先されます。要介護認定を受けている方は介護保険での利用が基本です。ただし、末期がん・難病・急性増悪期など厚生労働大臣が定める疾病等に該当する場合は、要介護認定の有無にかかわらず医療保険が適用されます。

Q. 40歳未満でも訪問看護を利用できますか?

はい、40歳未満の方でも医療保険を使って訪問看護を利用できます。主治医が訪問看護の必要性を認め、訪問看護指示書を交付すれば、年齢に関係なく医療保険での訪問看護が可能です。小児や精神疾患の方も対象となります。

Q. 訪問看護の自己負担額はどれくらいですか?

医療保険の場合、年齢や所得に応じて1割から3割の自己負担となります。介護保険の場合も原則1割負担ですが、一定以上の所得がある方は2割または3割負担です。いずれの場合も高額療養費制度や高額介護サービス費制度により、月ごとの自己負担上限額が設けられています。

Q. 開業時に医療保険と介護保険の両方の指定申請が必要ですか?

はい、訪問看護ステーションを開業する際は、介護保険の指定申請(都道府県等)と医療保険の指定申請(地方厚生局)の両方が必要です。介護保険の指定を受けるとみなし指定が適用される場合もありますが、管轄の厚生局に確認することをおすすめします。

Q. 医療保険と介護保険で訪問看護の報酬請求先は異なりますか?

はい、請求先が異なります。介護保険の場合は国民健康保険団体連合会(国保連)へ、医療保険の場合は社会保険診療報酬支払基金または国保連へレセプトを提出します。同じ利用者でも適用保険が変わると請求先も変わるため、事務体制の整備が重要です。

まとめ

訪問看護における医療保険と介護保険の違いについて、比較表や具体的なケースを交えて解説しました。最後に要点を整理します。

  • 訪問看護では医療保険と介護保険の2つの公的保険が利用できる
  • 要介護認定を受けている場合は原則として介護保険が優先される
  • 末期がん・難病・急性増悪期などは医療保険が優先して適用される(例外規定)
  • 40歳未満の方や要介護認定を受けていない方は医療保険のみで利用する
  • 開業時は介護保険と医療保険の両方の指定申請が必要
  • 適用保険によってレセプトの請求先が異なるため、事務体制の整備が不可欠

制度の詳細は自治体や厚生局によって運用が異なる場合がありますので、開業準備の段階で管轄機関へ確認しておくことをおすすめします。訪問看護ステーションの開業スケジュール収支シミュレーションもあわせてご覧ください。

参考・出典

この記事の監修

この記事は、訪問看護業界に精通した医療職を含むほうかんWEB編集チームが監修しています。掲載情報は公的機関の資料に基づいていますが、制度の詳細は自治体や時期により異なる場合があります。最新情報は管轄の自治体や厚生局へお問い合わせください。